不登校と向き合う自然学園の歴史

山村留学20年間の取り組み

所在地

所在地は、高知県吾川郡仁淀川町竹ノ谷612番地、標高約250〜270m、周りを山に囲まれた自然豊かな場所にあり、高知市から車で約1時間20分、仁淀川町役場から約10分の距離にある。

開園

平成5年2月に、無職青少年と不登校の生徒を預かる施設として開園し、今年で17年目になる。留学生の総数は、平成4年度から平成22年3月31日現在で延べ350名となり、本年度は17名の中学生が留学をした。

設立

池川自然学園は、平成元年に開塾した「池川塾」が前身となる。「都会に馴染めない子供たちを山村の美しい自然とあたたかい住民たちの中で再生させる。」を目的で開塾され、高校中退者1名と不登校の中学生2名でスタートした。当時は、高校中退者と不登校の子供を預かる施設として珍しかったようだ。池川塾の塾長は、後に池川自然学園の初代の園長となるが、子供たちに勤労体験(働く)と飼育や栽培(生命と向き合う)の体験をさせたい為、広い土地(約4ha)を探し一部を自費にて購入、その後当時の池川町(現在の仁淀川町)に寄付をされ、自然学園の設立に向けて尽力された。無職青少年対策を模索していた県が町(当時の池川町・現仁淀川町)を支援する形で「池川自然学園」を建設するに至った。

受け入れ

自然学園の留学生の受け入れについては、非行の強くない子を基本としている。「非行の強い子は受け入れる施設があるが、弱い子には施設がない。」ということが理由である。そして、入園の対象となる留学生は、義務教育を終了した無職の青少年や、不登校生と登校希望の山村留学生である。開園当初(平成5年度)は、1年間で31名の留学生が利用した。内16名が義務教育終了者で15名が中学時代に「いじめ」を受け登校できず、そのまま中学校を卒業した子供たちであった。卒業後も居場所がなく、無気力になり、表情もなく、家庭内暴力から非行と悪循環から抜け出せない状態が見受けられる生徒もおり、親子共々に不安な状態の来園であった。しかし、自然学園に入園することで、「やり直せる。」という気持ちと「何処を探してもなかった。おかげで安心しました。」など、保護者の素直な気持ちを聞くことができた。

位置づけ

また、自然学園は入園時期や退園時期を定めてはいない。入園を希望する子供の状態にあわせて、入退園を認めている。在園期間も同様で、短期間(2〜3日)で終了する留学生や1年から3年近く留学する子供もいる。そして、自然学園の大きな特徴は寮生活である。親元を離れて同世代の留学生同士、同じ悩みを共有し、自立心や忍耐力を養い、家族を含めお世話になっている方々への感謝と思いやりの心を育てることを目的としている。そして、学園は学校復帰を「第一」にはしていない。留学生同士、職員と留学生との人間関係を基本に、食事や学習、余暇の過ごし方など、日常生活の喜怒哀楽を共有することで、本来の留学生の表情を取り戻すきっかけとなり、その結果、学校復帰につながればと、考えている。

留学生

受け入れ対象者は、高知県や四国のみならず、全国的に窓口は開いている。平成21年度の留学生17名の内、16名は3ヶ月から1年ほどの不登校経験者で、「いじめ」や「家庭の問題」「非行」「生活の乱れ」などの改善が来園の動機となっており、問い合わせ方法は、ほとんどがインターネットである。出身地は、東京、千葉、埼玉、静岡、京都、大阪など、遠方からの問い合わせや来園である。

特色

このように遠方から高知県の山間にある「自然学園」を選択される理由には、以下のことが考えられる。自然学園の大きな特徴となるが、山村留学事業と不登校児童生徒の適応指導教室(中学校の出席扱い)の役割を平行した事業を行っているからである。山村留学事業の取り組みは全国的にも多く、同様に適応指導教室やフリースクールも数多くなっているが、「自然学園」のように寮生活の形態で不登校の中学生を預かり、状態が回復すれば出身校の中学校に復学できることや、「いじめ等」で恐怖心がある中学生の場合は、出身校に帰らずに山村留学生として転校し、生活の場所を変えず(自然学園生活の継続)、新しい中学校に登校できる態勢は、全国的にも珍しい取り組みである、と考えている。また、留学期間が任意であり、留学生の精神的な負担にもならず、小規模の落着いた雰囲気も合い重なっている。また、「不登校やいじめを受けた経験を持つ子供たちが一緒にいる。」ということで安心し、ゆっくりと進路を検討するための短期入園や、自然学園で日課に沿った生活をすることで「出席扱い」の対象になることを望んで長期の留学を希望する留学生もいる。しかし、一番の理由は、不登校の生徒に転校の機会が生まれることで、学校への復帰が入園後の延長線上にあることである。特に最近の入園希望者はほとんどがこの傾向である。

入園生の例

【例】○○県在住の中学1年生のAさんが、○○県の在籍中学校で「いじめ」を受け5月から不登校になる。母親は中学校や関係機関に相談をするが良い方法が見つからず、インターネットで自然学園のことを知り、家族で見学する。不安であったが、○○県の中学校在籍のまま、半年、自然学園で生活をする(その半年の間は在籍中学校の出席扱いとなる)。自然学園で生活する中で、池川中学校(高知県仁淀川町)の存在を知り、興味を持つようになる。○○県の中学校に復学するには不安があり転校を考え、2年生に進級と同時に池川中学校に転校する(高知県仁淀川町の住民)。その後池川中学校を卒業し、○○県の高校に進学する。

簡単ではあるが、以上のような流れとなる。しかしながら、池川中学校への転校は、自然学園に入園しており、学園生活が良好(常識レベル)であることが条件となる。

最近の留学生

全国で山村留学の取り組みをしている市町村、団体はたくさんあるが、そのような事業所からも「いじめによる不登校生」の問い合わせが多くなっていると聞く。純粋な山村留学希望者と不登校生とでは指導面が違い、不登校経験者は敬遠される傾向が強いとも聞く。現在の教育現場は、先生の指導力の向上に向け、また、スクールカウンセラーの配置や適応指導教室と十分なくらいの対応はされているが、一部の来園者のなかには、難しい表情をされる方もいる。また学校以外にどのような方法で、何処にどのように相談していいのか分からない、ということで悩まれている方々が多いように思う。学園への問い合わせもほとんどがインターネットである。自然学園は、職員数が4名で十分な広報活動もできない状態のため、インターネットは有難い存在となっている。学園では毎年3月に卒園式を行っているが、不登校経験者として入園をした留学生が、16年度は6名、17年度6名、18年度2名、19年度3名、20年度2名、21年度2名が高校進学を決め、卒園している。

不登校への向き合い方

学園は法的な措置を受け、入園する施設ではない。弱い子、犠牲になっている可哀想な子供たちが、自分らしさを取り戻そうとする場所である。非行でなく、病気でなく、いじめや本人の未熟さだけで登校に支障がある生徒には、とりあえず、生活環境(食生活を含む)と人間関係を変えることで、生活の改善や登校に向けての手がかりが見えてくる。相談しても改善せず、探す充てもなく、インターネットで見つける確信もなく、それまで面識もなく紹介もない田舎の施設に、最後の手段として期待をつなげなければならない、保護者の不安感は相当なもの。自然学園は不登校の相談でなく、子どもたちに新しい生活環境や人間関係を提供し、自然学園の職員と留学生との共同生活で、喜怒哀楽を共有することも問題を解決する方法の一つと考える。

自然学園は寮生活で四国山地の山奥、月々の費用もかかり生活環境は厳しく、子どもには楽な環境ではない。そんな中で、子どもたちと人間関係を模索しながら、自然学園は18年目を迎えようとしている。

最後までありがとうございました。

平成22年3月31日現在